HDDのファームウェアはプラッターにも入っている

必須ファームが読み込まれていない

十数年前に一度依頼したことがあるのですが・・・というお客様がこのところ何組かお見えになりました。
当店にご依頼いただくお客様は共通点があって、技術に明るいのと、
当店のWEBを隅から隅まで見ていただいている方が多い印象です。
納品の際にいろいろとお話をさせていただくのですが、
やはり技術的な話題になることが多いです。

お客様とお話した中で、技術に明るいお客様でも誤解があるのは、HDDの「ファームウェア」です。
ファームウェアと聞くと、一般的に思い浮かぶのはパソコン本体のファームウェア(BIOS)や
ルーターのファームウェアではないでしょうか。

このため、お客様にファームウェア障害とお伝えしても
「ファームウェアを基板のフラッシュROMに書き換えれば直るのではないか?」と
比較的簡単そうに思われてしまうことがあります。

HDDの裏側にある基板のフラッシュメモリに入っているファームウェアは全体のほんの一部分でしかなく、
大部分はHDDのプラッター上に存在しています。
このお話しをすると、ほとんどのお客様は「え、知らなかった」と驚かれます。

基板に入っているファームウェアはIPL程度の機能しかなく、
ここから立ち上げて、プラッター上にあるメインのファームウェアを読み込んで起動する、
という流れです。

これまた正常な他のHDDからファームウェアをひっこ抜いて、入れれば直るんじゃない?
と思われてしまうのですが、ファームウェアといってもそれぞれの個体ごとに異なるのです。

例えば、不良セクタなど、製造時点で多少は存在しているもので、
出荷時の検査段階でチェックされ、その個所は使用できないように無効化し、ファームウェアに書き込みます。

同じロット、同じ製造日とはいえ、不良セクタの位置までは一致するはずもありませんので、
ファームを移植したところで正常なセクタが不良、不良なセクタが正常など、
整合性が取れなくなり、最悪内部のデータが破損してしまいます。

また、プラッター上にファームウェアがあるということは不良セクタに侵される可能性もあるわけで、
実際、不良セクタが多発しているHDDはユーザーエリアだけでなく、ファームウェアが入っているサービスエリアも同じように浸食されることがよくあります。

今処置を行っているIBMのTravelstar IC25N015ATDA04-0
IBM Travelstar IC25N015ATDA04-0
古いThinkPadに内蔵されていたHDDで、通電してもBIOSで認識できません。
通電してもBIOS認識しない
ファームウェアを解析すると、製造時からある不良セクタと使用中に検出した不良セクタのリストなど、
重要なファームウェアが破損していることが検出されました。
重要なファームウェアが読み込まれていない
このファームウェアをあれこれ直して無事起動するようになりました。
HDDはBIOSで認識できる状態になった
ただし、ファームの入っていた位置に不良セクタがあるため、データを取り出す間、一時的に起動するだけです。

「専用の機材があれば、こういうのを直せるのんですね?ボタン一発とかで?」
「いえいえ、手作業です。モジュールのダンプ開いて異常個所を見つけて」
「え、手作業なんですか?」
「そうです。復旧機材を購入した頃、ワンボタンで直っちゃうのかな?と期待したことがあるんですが、そういうの役に立ちませんでしたね。」
「じゃあ復旧機材は何のためにあるんですか?」
「ファームウェア領域にアクセスするためとその書き換え、どこが悪いのかの診断、それとファームのバックアップが取れるためですね。」
「じゃ、悪いところが分かればあとはチョチョイって感じですか?」
「いやいや、どのモジュールが悪いかわかるだけなので。モジュール内のどこがおかしいかは手動なんです。
例えていうならレジストリがぶっ壊れて起動しなくなったWindowsのレジストリを手作業で直すようなもんです」
「ああ、なるほど。・・・・それは全力でやりたくないですね」
「HDDも一つのコンピュータで、HDDを動作させるOSが起動していないと捉えるとわかりやすいです。」
「だからBIOSで認識しなくても、必ずしもヘッドを交換する必要がないのですね。」
「おっしゃる通りです!」

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