データ復旧とは何か?
世の中の様々な情報メディアがデータ化されています。
写真はフィルムからデジタルカメラの「画像データ」に、音楽はCDからMP3などの「音楽データ」となり、ビデオテープに録画していた映像も「動画データ」となりました。
買い物ですら、現金でのやりとりは減り、「電子マネー」というデジタルデータでのやりとりに移ろいでいます。このように、これまで「モノ」でやりとりしてきた大切な情報の「デジタルデータ化」が進んでいます。
大事な情報のデジタルデータ化が進んでいる
これまで、大切な「モノ」の管理はどのようにしていたでしょうか。たとえば、現金のように再発行が不可能で、なくして困るものは「金庫」に保管をしておきました。危険性としては、泥棒に盗まれる、火事に遭うくらいなもので、耐火性の高い金庫に入れておけば火災にあっても中身は無事。銀行の貸金庫に入れておけば泥棒に盗まれる危険性はほぼゼロ、です。
「モノ」の管理は目に見えるのでわかりやすい
一方、デジタルデータはどうでしょうか?パソコンのデータはハードディスクやSSDに保存され、持ち歩きにはUSBメモリを使い、SDカードには写真を記録しています。データはこれらの「記録メディア」と呼ばれる製品に保存をしています。「大事なデータを保存しているのだから、そう簡単には壊れないだろう」とお考えの方も多いかと思いますが、答えは全く逆で、実は非常に脆い(もろい)ものなのです。ちょっとした衝撃や、静電気でいとも簡単にデータが取り出せなくなってしまいます。
記録メディアは常に危険にさらされている
手元にパソコンの説明書がある方は、ページを開いてみてください。
【使用上の注意】の項目に絶対に記載されている文言があります。
「必ずバックアップをお取りください」
記録メディアは脆い、だから必ずバックアップを取ってくださいね。という前提で作られています。
パソコンの取扱説明書にはパックアップの必要性が記載されている
しかし、世間の多くの人はこの事実に気づいていません。いえ、気づいている人ですら、バックアップの取り方がわからない、バックアップ用のハードディスクを買うのがモッタイない、業者がやってくれたハズ?、設定したけど面倒だから放置、といった理由でまともにバックアップを行っていないのです。
大事なデータが、脆い記録媒体に入っていて、かつ、バックアップを取っていない記録メディアが破損したら・・・・
=データは完全に失われます!!
さきに述べたように、大切なモノはモノからデジタルデータに置き換わっています。取り貯められた大切な家族の写真、子供が生まれた時の動画、重要な会計帳簿、日記・・・こうして大切なデータはいとも簡単に失われてしまうのです。このような事態に遭遇したら、あきらめるしかないのか?
いいえ
正常に動作しなくなった記録媒体から、専門技術でデータを取り出すサービスがあります。
それが「データ復旧サービス」なのです。
修理とデータ復旧の違い
「ちょっと待って、壊れたとしても修理してもらえばいいんじゃない?」というご指摘があるかと思います。パソコンのハードディスクが壊れたならば、パソコンを製造したメーカーに修理に出せば有償、無償はさておき、修理受付期間中であれば修理してもらえます。しかし、メーカーは修理時にデータを取り出してくれません。「修理」とは、壊れたものを使えるように直すことです。メーカーとしては、壊れている記録メディアを新しいものに交換して、使える状態になれば修理完了、これがメーカーにおける修理の考え方です。
メーカーに”修理”に出すとデータが二度と戻らない場合もあるので、よくご確認を!
当然、交換された新しい記録メディアには元のデータが入っているはずはありません。「いやいや、そうではなく、重要なデータが入ったこのハードディスクをデータを失わせずに直してほしいのだよ!!」とお怒りになることでしょう。
それではなぜ、メーカーは記録メディアのデータを残して修理してくれないのでしょうか?
それは、データが入った状態の記録メディアを、データを維持したまま直すのは非常に難しいからなのです。
テレビ番組で国宝や文化財の修復の現場を見たことがある方も多いと思います。遺跡から出てきた壁画を剥がして修復するシーンが出てきます。ちょっと「ガリッ」とやったら、修復どころか元も子もなくしてしまいます。記録媒体も非常に繊細で、ちょっとしたことで元も子もなくなります。ですからメーカーは説明書で「バックアップを絶対に取ってください」と記載しているのです。
整理すると
- パソコンを直す(でも、データはあきらめる)=修理
- データを取り出す(でも、パソコンは直らない)=データ復旧
そこで、データを取り出す特殊技術を専門としている「データ復旧サービス」の出番がやってきます。パソコンが壊れて、データが重要であれば、まずデータ復旧を依頼→データが取り出せた後、パソコンをメーカーで修理という流れが一般的です。もちろん、データが大切でない、バックアップがある場合はデータ復旧の必要はありません。
データ障害の種類
データが取り出せなくなる障害で、ハードウェア側の障害のことを「物理障害」と呼んでいます。一方、ソフトウェア側の障害のことを「論理障害」と呼んでいます。
コンピュータの世界で「ハードウェア」といえば、装置、機械のことを指します。ハードウェアは物体として認識できる形がある、すなわち「物理的」に存在するものです。ハードウェアに対し「ソフトウェア」はプログラムやデータなど、物体として認識できる形はなく、思考的=「論理的」(logical)なものといえます。
物理障害とは
物理障害とはハードウェア側の障害であることは説明しました。例として、「ハードディスク」の物理障害はどのようなものがあるのか挙げていくことにします。
ハードディスクはケースの中に金属製のディスク(円盤)が入っています。このディスクに「磁気」でデータを書き込んでいます。磁気でデータを書き込むのはカセットテープや自動改札を通れる裏側が黒い切符などでおなじみです。
カセットテープや自動改札を通れる裏側が黒い切符などでおなじみ
ハードディスクは大量の磁気データを高速で書き込み、読み込むことが可能です。ディスクを回転させる「モーター」、そしてこのディスクにデータを書き込んだり、読み込んだりする「ヘッド」があります。構造が似ているものとして「レコードプレーヤー」を想像してください。ディスクにあたるレコード板があり、回転させるためのターンテーブルがあり、レコード針があります。
ハードディスクとレコードプレーヤーは構造がよく似ている
論理障害とは
コンピュータは「0と1」の数字の組み合わせだけで成り立っています。音楽データも、デジタル写真も、すべて数字の0と1に変換され、記録メディアに保存されています。
どんなデータも0と1だけに変換される
このため、記録媒体に多数のデータを保管し、管理するための仕組みがあります。これが「ファイルシステム」と呼ばれるもので、「FAT」や「NTFS」という名前を聞いたことがある方も多いかと思います。データがハードディスクのこの位置からこの位置に入っていて、ファイル名は○○というデータを管理するためのいわば「台帳」です。論理障害はこの「ファイルシステム」に異常が起こることで発生します。データの実体はハードディスクに入っているものの、台帳が壊れてしまったので見分けがつかず、データは取り出せなくなってしまうのです。
台帳にあたる管理情報が破損・消失すると、データは取り出せなくなる
また、正確には障害とはいえませんが、誤って初期化したり、データを削除してしまうミスをすることがあります。コンピューターにデータを削除する指示を出すと、コンピューターはファイルシステム(台帳)に書かれたデータの情報を削除します。しかし、メディアに書かれた0と1のデータは削除しません。つまり、台帳だけが消え、データの実態は残っています。この場合、論理障害のアプローチで復旧できることがあるため、誤削除はデータ復旧の世界では論理障害として扱っています。注意が必要なのは、論理障害は、物理障害が原因によりファイルシステムが壊れ、結果的に論理障害も引き起こす、といった複合的な障害も多く見られることです。
データ復旧ソフトとの違い
「データ復旧ソフト」をご存じの方も多いと思います。家電量販店でもたくさん種類があり、ネットで検索すれば多くのフリーソフトが見つかります。「データ復旧ソフトを使えばデータは取り戻せるのでは・・・?」とお考えの方も多いでしょう。しかし、データ復旧ソフトでは「論理障害」にしか対応できません。
物理障害が起こっている場合、対応できないばかりか、弱っている記録メディアにトドメを刺してしまい、専門家でも復旧が困難、最悪の場合復旧できなくなってしまうことがあります。一見、論理障害のように見えても、物理障害が原因で論理障害を起こしていることも少なくありません。データ復旧ソフトは「データを消した」「フォーマットした」などと原因がはっきり分かっている場合には有効な手段です。それ以外の原因がはっきりしない場合には使うべきではありません。どんな原因でデータが失われたのかを正確に判断するには知識と経験が必要です。
データ復旧があれば、バックアップは不要?
万一の時に頼れるデータ復旧サービスですが、確実にデータを復旧できるものではありません。記録メディアはデータの大容量化により精密度が増し、復旧が一段と難しくなっています。また、復旧が行えるのはあくまで復旧の余地が残されている場合に限ります
ディスクの表面がガリガリに削れて粉だらけになっているものは復旧の余地がありません。データ復旧サービスがあるからといって、バックアップをとらなくていい、ということにはならないのです。
宮澤 謹徳 オーインクメディアサービス株式会社代表取締役
情報処理安全確保支援士(登録番号:000079号)
データ復旧は1990年代前半のフロッピーディスクの復旧を皮切りに30年以上のキャリアがあります。テクニカルライターとしても活動し、パソコン解説書、ムック、雑誌など多数に寄稿。秋葉原在住。