NASの障害とデータ復旧方法の解説

NASによくみられるデータ障害と原因

ファームウェアの障害によるもの

NASは「小さなパソコン」の一種であり、ほとんどの機種はOSとして「Linux」がインストールされています。このLinuxのシステムを「ファームウェア」と呼んでいます。このファームウェアが何らかのトラブルで起動できなくなると、中のデータにアクセスすることができなくなります。 よく見られるのはファームウェアのバージョンアップを試み、正常に完了することができず、再起動を掛けたところ「エラー」が表示されて再起不能に陥るケースです。これは通常のパソコンでWindowsが起動しなくなるのと同じで、内部のデータは無傷で復旧できることがほとんどです。

ERRORランプが点灯したLinkstation
ファームウェア障害はエラーランプの点灯でわかる

また、ハードディスクに次項の物理障害が発生し、ファームウェアが入っている領域が破損したことによりシステムが起動しなくなることがあります。なお、このような症状になったとき、本来やってはいけない復旧作業を試して症状が悪化し、データ復旧ができなくなるところまで悪化させてしまうこっとがあるので注意が必要です。 なお、誤解されがちですが「ファームウェア」はROMだけに入っている訳ではなく、ハードディスクにもインストールされていますので、単純にハードディスクを交換しただけでは当然システムが入っていませんから動作しません。

ハードディスクの故障によるもの

AVラックに収納されている状態
夏場、あまりの高温でダウンすることも

NASは24時間365日電源を入れっぱなしにして使用することがほとんどです。また、AVラックなど、熱がこもる場所に設置されていることもあり、ハードディスクには過酷な環境下に置かれていることがあります。ハードディスクは熱に弱く、このような状況下で連続運転を行えば寿命は短くなり、故障率は上がります。LinkStationの場合エラーコード「E11」を吐いて停止することがよくみられます。また、エラーコード「E16」の場合、ハードディスクが認識されなくなっています。

ファイルシステムのトラブル

分解されたLANDISK
耐障害性は高いはずなのだが・・

NASはジャーナリング機能を備えるなど、比較的障害には強く設計されています。しかし、ファイルシステムの損傷を回避できないトラブルが発生した際にはデータが取り出せなくなる障害が起こります。

停電や再起動から復帰不能

APCのUPS
NASにも是非つけたいUPS

業務用のサーバーは停電に備え、必ずといっていいほど無停電電源装置(UPS)を設置しているものです。しかし、同じサーバにもかかわらず、NASにUPSを設置している人はあまりいません。 データへのアクセス中に停電が発生し故障することがあります。また、NASはパソコンと同様に正しいシャットダウン操作を行わなければファームウェアやデータが破損することがあります。 また、電気設備のメンテナンスや長期休暇の際にNASの電源を切り、休み明けに電源を入れても動作しないと駆け込まれる方が大勢いらっしゃいます。これはハードディスクに故障が発生している状態でなんとか動いていたものが、電源を入れ直すことにより壊れているシステム部分の読込ができずに起動しなくなるケースです。また、ハードディスクは起動時に大きな電流を消費しますが、本体の故障により起動に必要な電力をまかなえない状態になっていることもみられます。

誤った処置・操作

分解されたNAS
NASのハードディスクをWindowsにつけるとおかしくなることも

NASはLinuxで用いられるフォーマット形式が採用されています。単純にWindowsパソコンに接続しただけではデータを取り出すことは不可能です。NASが壊れたときに外付けハードディスクと同じようにPCに接続してCHKDSKやSCANDISKを掛けてしまうなど、むしろデータを壊してしまう操作をされることが少なくありません。

NASデータ復旧方法

当社ではまず、「ファームウェアの障害」か「ハードディスクの故障」かの切り分けを行います。 ファームウェアの障害の場合、データ部分は比較的無傷であることが多く、Linux専用の復旧環境でデータを強制的に取り出しを行います。この場合、比較的安価にデータ復旧が行えることが多いです。 一方、ハードディスクの故障、いわゆる「物理障害」が発生している場合は、通常の外付けハードディスクと同様の手法で一時的にハードディスクが動作できるように修復を行います。 その上でLinux専用の復旧環境を用い、データの取り出しを行います。 物理障害について詳しくは「ハードディスクデータ復旧」のページもご覧下さい。 なお、NASなどのLinux系のファイルシステムでデータを削除してしまった場合、データの復旧は困難となります。仕様上、ファイル名やタイムスタンプが消失していることも多くみられ、ファイルの構造からデータを取り出す処置が必要となることもあります。こうした場合、ずっと以前に削除したデータも含め、復旧できるデータはすべて復旧されてしまうこととなるために、必要なデータか否かの選別作業に時間がかかることも想定されます。

NAS・ネットワークHDDの知識

NASはネットワークでつながるHDD

「NAS」とは「Network-Attached-Storage」つまり「ネットワークにつなげる記憶装置」の略称で、一般的に「ナス」と呼ばれ、主に「ファイル共有」に特化して作られた機器です。 「NASは製品の規模や機能、能力により、大きく2種類に分けることができ、一つはRAIDや高度な認証機能が搭載された「業務用NAS」、もう一つは2002年頃から出回り始めた低価格のNASである「P-NAS」(「P」は「Personal」(パーソナル)を意味しますが、口の悪い人に「Poorman’s NAS」と揶揄されることもあります)です。

NASはLAN接続により複数のパソコンで利用可能。外付けHDDは1台のパソコンのみ接続可能
NASは「共有できる外付けハードディスク」と捉えることができる

業務用の境目があいまいに

前者の「業務用NAS」は複数のハードディスクが搭載され「RAID構成」となっているものがほとんどで、「P-NAS」はハードディスク1台のみが搭載された「シングルタイプ」のものが主流でしたが、近頃の製品はRAIDを搭載したモデルも登場し、業務用との境目が曖昧になってきました。 当社ではRAIDを搭載しているか、していないかでサービス分けをしており、RAID搭載機を「RAIDデータ復旧」としてご案内し、ハードディスク一本で構成(シングル構成)される機器を「NASデータ復旧」として、ご案内することにしています。(以降「NAS」の表記は特に断りなき限り「P-NAS」を指すこととします。)

業務用のカギがついたRAID NAS
業務用RAID機能搭載NAS

ファイル共有はハードルが高かった

さて、前置きが長くなりましたが、このNASが登場する以前、ネットワーク上でファイル共有をするには、Windowsの「ファイル共有機能」を用いるか、専用の「ファイルサーバー」を立てるしか方法はありませんでした。(余談ですがフロッピーでデータをやりとりするのを「スニーカーネットワーク」と呼んだものです)しかし、「ファイル共有機能」はユーザー名などの設定が面倒で、当然共有側のパソコンを起動させておかなければならず、使い勝手は決してよいとはいえません。 かといって、家庭や小企業のわずか数人でファイルを共有したいだけにもかかわらず、リース契約を想定した高額な専用のサーバーでは「大げさすぎる」というミスマッチが起こっていました。

家庭やSOHOにミスマッチな大きなサーバー
家庭やスモールビジネス市場にはミスマッチな大きいサーバー

ついにNASが登場!

そこに彗星のごとく現れたのが「NAS」(P-NAS)です。小規模ファイルサーバ市場のユーザーが求めていたニーズにピッタリと合致し、外付けハードディスクにプラスαした程度の手頃な価格も受け、アッという間に普及したのです。

初代Linkstation HD-120LAN
初代リンクステーション HD-120LAN

当初は外付けのハードディスクを接続して使う「アダプタ型」がよく見られましたが、メルコ(現バッファロー)が直接LANケーブルが差し込める「外付けハードディスク型」の「Link Station」(リンクステーション)を発売すると、単なる外付けハードディスクに若干上乗せした程度の手頃な価格と手軽さで爆発的にヒットしました。 これ以降、NASは「外付けハードディスク型」が主流となり、外見だけではUSB外付けハードディスクと見分けがつきにくくなっています。 一方、アダプタ型も市場から消えたわけではなく、「無線LANルータ」にUSBハードディスクやUSBメモリなどを接続するだけでNASとして使えるいち機能として実装されるようになりました。 この2000年代初頭に出現したNASは、10年で驚くほどに進化し続けています。 機器の進化もさることながら、ユーザーの利用シーンが劇的に変化をしているからです。

デジタルライフの中心にあるNAS

デジタルテレビやハードディスクレコーダー、スマートフォン、タブレットなど、家庭におけるデジタルデータの主役はもはやパソコンではありません。これまでのパソコンデータのファイル共有機能だけでなく、AV機能に特化した製品が増えています。 「DLNA」や「DTCP-IP」といったネットワーク上でデジタル著作物を扱う規格も整備され、リビングのテレビでNASに録画した番組を寝室のテレビで視る、あるいはルーターと組み合わせて、外出先からNASに保存した音楽をタブレット端末で聴く、といった活用が実現でき、これまでパソコン周辺機器メーカーの独壇場NAS市場にソニーが「ナスネ」を投入、新しい切り口で裾野を拡げています。 また、スマートフォンの普及も大きなインパクトを与えました。外出先でもデジタルデータを扱うニーズが増加し、大容量のクラウドストレージサービスを利用するとコストが高くつくため、自宅に置いたNASを「自前クラウド」として利用する人も増えているようです。 このようにNASは家庭内のデジタルデータを一元管理する「メディアセンター」として重要な役割を担いつつあります。

タブレット、スマホ、クラウドの出現で活用法が大きく変化
タブレットやスマホ、クラウドの出現でデータの活用法は大きく変化した
この記事を書いた人
宮澤です

宮澤 謹徳 オーインクメディアサービス株式会社代表取締役
情報処理安全確保支援士(登録番号:000079号)
データ復旧は1990年代前半のフロッピーディスクの復旧を皮切りに30年以上のキャリアがあります。テクニカルライターとしても活動し、パソコン解説書、ムック、雑誌など多数に寄稿。秋葉原在住。